100年続く老舗伝統の継承と変化の受容

台北にある多くの老舗店舗は、伝統的な技術とその精神を100年に渡って継承してきました。
台北にある多くの老舗店舗は、伝統的な技術とその精神を100年に渡って継承してきました。

【文: Rick Charette and Elisa Cohen】

【編集: 下山敬之】

【写真: Dinghan Zheng、Samil Kuo、Yenyi Lin、台北市政府観光伝播局】

台北は伝統文化とモダンな暮らしが融合し、調和の取れた大都市です。ここには明るくカラフルな大型ショッピングモールに加え、地元に深く根付き、市内のみならず遠方でも評判の高い家族経営の老舗店舗が無数に並んでいます。

長年の知恵と技術を受け継いだ後継者である今の世代は、熱い情熱と熱意をもって事業に精励し、伝統ある文化を現代に体現しています。本記事では、市内で最も輝きを放ち、長年愛されてきた100年の歴史を持つ4つの店舗をご紹介します。各店舗ではお香、装飾用ランタン、スーツ、毛筆と異なる伝統的な商品を取り扱っていますが、先人の誇りや知恵を受け継ぎながら、現代の消費者の感覚やニーズに合うよう新しい要素を取り入れています。その経営理念や活用している技術、地域や街の変化に合わせてどのように商習慣を変えているのかを伺いました。

また、これらの店舗は史跡が豊富な台北の中心地から西部にあります。例えば、万華区は1700年代初期台湾で初めて漢民族が居住した地域であり、河川港として台北の物流を支えてきました。その近くにある大稲埕は1850年代に誕生し、万華の役割を引き継いで国際貿易の拠点として発展。博愛特区は1880年に建設された古い城塞都市であり、国の中核となる庁舎や歴史的建造物が集まる地域です。そうした地域で発展した老舗の魅力に迫ります。

老綿成灯篭店

老綿成では伝統的なランタン以外にも様々な材料を使ったり、新たな発想で新製品を作り続けています。
老綿成では伝統的なランタン以外にも様々な材料を使ったり、新たな発想で新製品を作り続けています。
迪化街のはずれに位置する老綿成灯篭店は1915年に創業しました。様々な色や形のランタンがレトロな赤レンガ建築の入口に吊るされ、周辺の歴史ある建物にも生き生きとした雰囲気を与えています。

子供の頃から家族の経営するお店を手伝い、現在は三代目の店長を務める張美美(ジャン・メイメイ)氏は、祖父が参拝用の冥銭の問屋から事業を始め、後にランタン販売に事業を転換したと教えてくれました。ランタンは宗教的な儀式と関連性があり、祭事の際には寺院で幸運を祈り、平和のシンボルとしてランタンに火を灯すことが一般的です。

「私が子供の頃、ここは非常に賑やかでした」と張氏は語ります。迪化街のはずれにあるこの地域はかつて橋頭市場と呼ばれ、迪化街の反対にある永楽市場(現永楽布業商場)に匹敵する規模でした。この通りにはお店が数多く並び、毎日人が溢れていました。張氏の話では画家の郭雪湖が描いた「南街殷賑」には1930年当時の大稲埕の様子が生き生きと描写されているそうです。「作品を近くでじっくり見てみると、当時のランタンの様子が伺えます。これは竹と布を使用した初期のランタンの一種です」と教えてくれました。

ランタンの作り方は直感的で、紙や布をランタンの骨格に貼り付けて中を空洞にし、点火できるスペースを作ります。「実は各部には秘密が隠されています」と四代目に当たる張新怡(ジャン・シンイー)氏は説明します。ランタンは広げると伸びてしまうため、下から見上げることができるよう高い位置に吊るすことが一般的だそうです。従って、ランタンに絵柄や文字を書くときは、広げたときに均等に見えるように比率に注意する必要があります。また、張氏は竹の選定にもこだわっています。ランタンに必要な強度と弾力性は、特定時期に生産された竹にしかないものです。高品質なランタン作りのために、老綿成では材料と技術に一切の妥協を許しません。

竹で編んだランタンに必要な材料と技術は、すべて長年の経験によって作られました。
竹で編んだランタンに必要な材料と技術は、すべて長年の経験によって作られました。
老綿成では伝統的な寺院の儀式用のランタンに加え、顧客のニーズやマーケティング活動に合わせ、常に最新の塗装や製法を取り入れた独自の形状の装飾用ランタンを製作。その一部は海外へ輸出しています。過去には台北市政府と協力し、旧暦のバレンタインデーにパステルカラーのランタントンネルを製作し、大稲埕をロマンチックな雰囲気にライトアップした実績もあります。今年は大稲埕の台北霞海城隍廟と共同で、台北霞海城隍文化祭で披露された金色のランタンのデザインに参画。近隣のお店は金色のランタンをぶら下げて来場者を歓迎しました。

老綿成は2020年のバレンタインのイベントに合わせてカラフルなランタンを製作し、大稲埕を美しく染め上げました。(写真/台北市政府観光伝播局)
老綿成は2020年のバレンタインのイベントに合わせてカラフルなランタンを製作し、大稲埕を美しく染め上げました。(写真/台北市政府観光伝播局)

ブランドマネジメントを担当する張氏は、ランタンの画期的な利用方法を積極的に推進しています。例えばブランドロゴをブロックチェーンに登録したり、最近では般若心経が書かれた大きなランタンを非代替性トークンNFT(Non-Fungible Token)にして、デジタル上の作品を製作するなどです。さらに、GIF(Graphics Interchange Format)を利用して、ランタンが滑らかに回転する3D効果も実現しています。

老綿成では伝統的なランタン以外にも様々な材料を使ったり、新たな発想で新製品を作り続けています。
老綿成では伝統的なランタン以外にも様々な材料を使ったり、新たな発想で新製品を作り続けています。

張氏は「老綿成では107年間、ランタンからNFTまで一つ一つ技術と経験を積み重ねてきました」と言います。彼女たちは4代にわたって培った経験を生かして、さまざまな団体とのコラボレーションを実現し、記憶に残るような煌めく作品を生み出し続けています。

老綿成灯篭店

住所 大同区迪化街一段298号

営業時間 09:30~19:30

老明玉香舖

老明玉香舖では参拝用の商品を販売しています。(写真/Dinghan Zheng)
老明玉香舖では参拝用の商品を販売しています。(写真/Dinghan Zheng)
万華区の貴陽街に位置する老明玉香舖は、1897年の創業以来120年以上の歴史を誇るお香のお店です。レトロな赤レンガの建物の中にある同店は、金箔と銀箔が貼られた冥銭やカラフルな蓮の花の飾りなど各種参拝用品を販売しています。台湾の人々は神様や先祖へお祈りした後に、これらが向こうの世界で受け取れるようにと燃やす習慣があります。

昨今、手作りの冥銭は台北にあるいくつかの老舗でしか見かけなくなっています。(写真/Dinghan Zheng)
昨今、手作りの冥銭は台北にあるいくつかの老舗でしか見かけなくなっています。(写真/Dinghan Zheng)

伝統的な漢方薬のほのかな香りが漂う店内に入ると、四代目店長を務める黄瓊儀(ホァン・チョンイー)氏が赤い箱の中に入った線香の束を見せてくれました。黄氏は「このロゴは祖父の時代から使用していて、現在は曾祖父の写真を記念として印刷しています」と説明してくれました。この模様は黄氏の曾祖父が手書きで描いたものであり、100年以上が過ぎた現在でも鮮やかな色合いを保っています。

老明玉はの歴史は黄氏の曾祖父が天秤棒を担ぎながら行商をしていたことから始まります。その後、老明玉は万華内を何度も移転し、最終的に貴陽街で店を構えました。

このお店で育った黄氏はかつての貴陽街がいつもたくさんの人で賑わっていたと振り返ります。近所にある艋舺清水巌祖師廟、艋舺青山宮、艋舺龍山寺へ参拝する人たちが、お香を求めてお店に殺到していました。また、かつては有名な朝食街だったこともあり、市場での買い物や食事を目的とする人も多くいました。「ここはかつて、淡水河の河口まで続く『台北の一番街』で、とても賑やかでした」と黄氏は語っています。

現在この通りはかつてほど栄えてはいませんが、旧正月期間になると多くの人が老明玉を訪れます。黄氏は「伝統的な参拝用品の多くはここでしか手に入らないと言われるお客様が多いです」と述べています。老明玉の商品は天然のハーブを粉にした後、天然の粘着力を持つ酵素を練りこんで仕上げた香りつきパウダーを使用。この独自の製法は黄氏の祖父の時代から受け継がれてきました。優しく穏やかな香りから温もりが感じられるこのお香はリラックス効果を高めます。

線香は家庭内で受け継がれた製法を守り、パッケージには創業者の写真を印刷しています。(写真/Dinghan Zheng)
線香は家庭内で受け継がれた製法を守り、パッケージには創業者の写真を印刷しています。(写真/Dinghan Zheng)
線香は家庭内で受け継がれた製法を守り、パッケージには創業者の写真を印刷しています。(写真/Dinghan Zheng)
線香は家庭内で受け継がれた製法を守り、パッケージには創業者の写真を印刷しています。(写真/Dinghan Zheng)

老明玉は時代の変化に直面したものの伝統技術を捨てず、代わりに安定した需要が見込める形や用途が異なる線香、渦巻き香、横置き線香の製造を開始。これによって日常生活の中で伝統的な線香の使い道を見出すことができました。1世紀以上の歴史を誇る老舗はこれからも顧客のニーズに合わせ、天然材料を使用した高品質な製品開発に力を入れていきます。「私たちは良質な材料を使用し、伝統技術にこだわることで多くのお客様から支持されています」と黄氏は誇らしげに語りました。

老明玉香舖

住所 万華区貴陽街二段155号

営業時間 08:30~21:30

林三益筆墨專家

毛筆作りの技術を継承する林三益では、素材選びとその応用が重要であると考えています。(写真/Yenyi Lin)
毛筆作りの技術を継承する林三益では、素材選びとその応用が重要であると考えています。(写真/Yenyi Lin)
毛筆作りの技術を継承する林三益では、素材選びとその応用が重要であると考えています。(写真/Yenyi Lin)
毛筆作りの技術を継承する林三益では、素材選びとその応用が重要であると考えています。(写真/Yenyi Lin)
林三益は台北で古い歴史を持つ三大地域の一つ大稲埕の端に位置する伝統的な毛筆の販売のお店です。特に商業建築の史跡が多い大稲埕は台湾北部の伝統的な特産品、漢方薬、客家花布などの卸売・小売の中心地です。

同社は伝統を重んじながらも、現代的な起業家精神にあふれた企業として知られ、新たな収益源を求める他の家族経営の老舗企業の手本となっています。2008年にはメイクブラシのブランド「LSY」を発表し、新たな世界へ進出しました。

1917年、同社は中国福建省の福州で創業しました。1946年、中国の政治経済情勢が急速に悪化する中、台湾への移転を決定。その後、台湾全土の書道関連用品において「龍頭」、つまり業界のリーダーとして揺るぎない地位を確立していきました。

しかし、4代目の林昌隆氏によれば、時代の変化とともに新たな波が押し寄せ、ペンやキーボードの普及が販売に打撃を与えるようになったそうです。「その傾向は1990年代から本格化しました。現在、書道は小中学校で教わることがなくなり、生きていくためではなく、趣味の領域になっています」。

林三益の毛筆の販売を強化するために、新たな収益源を模索していた林氏は、同社の手作りブラシに関する深い専門知識をベースに、女性向けの高品質メイクブラシと男性向けの洗顔ブラシの開発をスタート。「この分野の競合する大手ブランドとは対照的に、林三益はフットワークが軽く、法人と個人の両方のお客様にカスタムデザインのブラシを提供することができます」と林氏は説明します。

こうしたLSYの高級品は現在、大手百貨店の高級売り場で販売されるなど、輝かしい成功を収めています。「林三益の書道用毛筆とLSYのメイクブラシは一つ一つが手作りの芸術品で魅力的なラインを描くことができます。そのため、他とは一味違うプレゼントやお土産を求める海外旅行者の間で安定した売上を誇っています」。

林三益では熟知した筆製作の技術を新たなメイク用ブラシの開発に転換しました。(写真/Yenyi Lin)
林三益では熟知した筆製作の技術を新たなメイク用ブラシの開発に転換しました。(写真/Yenyi Lin)
林三益では熟知した筆製作の技術を新たなメイク用ブラシの開発に転換しました。(写真/Yenyi Lin)
林三益では熟知した筆製作の技術を新たなメイク用ブラシの開発に転換しました。(写真/Yenyi Lin)

林氏に林三益の哲学について伺いました。「書道用の毛筆はお客様の『内なる美しさ』を追求するためのものである一方、LSYは私たちが培ってきた製造技術を活かし、お客様の『外見の美しさ』を追求することを目指しました」。

重要なことは筆の作り方だけでなく、毛の選定も要素の1つだと林氏は言います。「私たちの製品は、つの点で優れています。それぞれの筆は書道用、メイク用と用途が決まっており、硬さ、柔らかさ、弾力性、しなやかさ、吸水性などに優れた毛が必要です。私たちは父の時代から、東アジアと他の地域で、クロテンからイノシシまであらゆる動物の毛を使用して、目的に合った完璧な毛がどれかを試し、精査してきました」。

林氏は続けます。「しかし、環境意識の高まりから現在では合成繊維の使用を増やしています。それがプラスチックによる環境問題をはらんでいることも認識しています。また、新型コロナウィルスの影響を受けて、書道用毛筆・メイクブラシのプロモーション動画を使いオンライン上での宣伝を強化しています」。

林三益筆墨專家

住所 大同区重慶北路二段58号

営業時間 09:00~18:00

湯姆西服

長年のオーダーメイドスーツ製作の経験を持つ湯姆西では、細部までお客様に合ったスーツを作っています。
長年のオーダーメイドスーツ製作の経験を持つ湯姆西では、細部までお客様に合ったスーツを作っています。
100年の歴史を持つ「湯姆西服」は、台北を象徴する男性用オーダーメイドスーツのブランドです。1945年に中国上海から台北に移転してきた同店は、古くから大物政治家や有名人のフォーマルスーツを手がけてきたオーダーメイドスーツのお店です。同店は「歴代総統のデザイナーズスーツショップ」として有名であることを誇りとしています。

現在許金地(シュー・ジンディ)氏が3代目の経営者として舵を取っています。1916年、上品な雰囲気漂う上海フランス租界に湯姆西服が誕生しました。許氏によると「顧客には国内で最も地位の高い人々が含まれていました。例えば、蒋介石総統と宋美齢夫人が1927年に盛大な結婚式を開いたときの衣装は私たちが仕立てたものです。これらの衣装は中正記念堂に飾られています」。同社のテーラーたちは、もともと中国の伝統的な礼服を作っていた「紅幫」という上海における中国と西洋の顧客をターゲットとした礼服の仕立てに関して大きな影響力を発揮していました。

1945年、中国の情勢が不安定になったことを受け、総統府をはじめとする重要な公共建築物が多く立ち並ぶ台北の博愛特区へ移転。「当時、ここは台北でも有数の繁華街で、夜中まで営業しているお店もあり、常に活気がありました。現在は、静かで歴史的な公共・商業建築の街となっています」と許氏は振り返ります。

常に伝統とモダンを同時に受け入れてきたことが湯姆西服の事業の本質なのだそうです。「当社の熟練の職人技は紅幫直伝です。私たちは中国の礼装用に開発された他に類を見ない独自の技術と、百錬の職人技を駆使しています。しかし、同時に新しいものを取り入れるために、スーツ業界の最新の動向を把握する必要があります」と許氏は言います。

湯姆西では異なる生地や素材を選び、要望に合わせてカスタマイズしたスーツを提供しています。
湯姆西では異なる生地や素材を選び、要望に合わせてカスタマイズしたスーツを提供しています。

同社は常に世界各地から最新のスーツファッションに関する情報を集めることでスタイルや生地のトレンドを的確に把握し、お客様に最新情報を提供することをモットーとしています。また、台湾の若い世代に長く愛用されることを目指し、常に若い世代の目を引くシックなデザインと一般消費者向けのリーズナブルな価格帯を実現しています。そのため、初めてスーツを仕立てたのが湯姆西服だったという台北市民も多いです。次代を担う4代目の許氏によれば、新しいスタイルの導入が加速し、「仕立て業界のダイナミックな変化」が家業にも影響しているとのことでした。

湯姆西では伝統技術を守るだけでなく、流行ファッションにも注目し、時代に合ったデザインを心がけています。
湯姆西では伝統技術を守るだけでなく、流行ファッションにも注目し、時代に合ったデザインを心がけています。
湯姆西では伝統技術を守るだけでなく、流行ファッションにも注目し、時代に合ったデザインを心がけています。
湯姆西では伝統技術を守るだけでなく、流行ファッションにも注目し、時代に合ったデザインを心がけています。

湯姆西服

住所 中正区博愛路90号

営業時間 10:00~21:00

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